第07話|枯れた泉──ほんとうの癒しをさがして

本当の癒しって

なんだろう?

本当に癒されているって

どんな状態なんだろう?

ただ それを

知りたかっただけなのに──

気づけば

その問いとは 正反対の場所にいた

生きていていいのかさえ

わからなかった

音は出ているのに

心はどこか 欠けていて

あたたかさを求めているのに

触れるものすべてが 冷たかった

自分がどこにいるのかもわからず

息をひそめて ただ存在していた

──音楽の扉は

ゆっくりと 閉ざされていった

──

音との距離が 少しずつ離れていた頃

私は 陶芸を習っていました

ある日 先生に

思うように吹けなくなってしまったことを話すと

「やりたいと思ったことをやってごらん

いつか一つの場所にたどり着くから」

と 声をかけていただきました

──

音楽の扉は閉ざされたままだったけれど

オーボエは 私のことを待っていてくれました

ある日の演奏で

ショスタコーヴィチの あの旋律

すべてが静止したような

弦のざわめきのなかで

私の音が 空間に溶けていく

音楽とひとつになれた あの一瞬だけは

たしかに 生きていた

でも その時間さえ

やがて 過ぎていきました

音には 心が映る──

だからこそ

自分の中にある“なにか”に

触れるのが 怖くなり

音が 出せなくなっていきました

癒しの音楽が やりたいのに

人を癒すどころではない

──まずは

自分自身を 癒さなければ

あの頃の私は

生きていたのかも わからない

涙さえ 出なかった

現実があまりに重すぎて

感じることを 手放していた

ココロとカダラは

どこか 別の場所にいて

ただ 時間だけが過ぎていく

私の中の泉は

もう 枯れてしまったのかもしれない──

でも いま思うのです

枯れたのではなく

とても深いところに 沈んでいた

ただ 静かに

静かに

息をしていたのだと──

音楽から離れざるを得なくなり

それなら 音楽の次に好きな

インテリアの仕事をしようと思いました

入り口はなんでもいいから

インテリアの仕事がしたいと思って

都会のオシャレな駅前にある

現場監督の会社に入りました

ほうきとガラ袋を持って

その都会のオシャレな駅前を歩いていたとき

先輩に言われました

「女の子なのによく嫌がらないね」

でも 私はただ

楽しかっただけでした

現場に行くのも 大好きでした

吹き抜けの高い場所から

職人さんたちが 溶接の火花を散らしていて

バチバチと降ってくるその景色が

ただ きれいで

思わず じっと見上げてしまったのを覚えています

でも現場では 何をしていいかもわからず

「掃除でもしてろ」と言われて掃除をしていたとき

あるインテリアデザイナーの方に出会いました

「あなたはここにいる人じゃない。うちに来なさい」

そう言われて 仕事終わりにその会社を訪ねたら

「現場で拾った」と言われ

その場で 社長が現場監督の会社に電話してくれて

「この子はうちで引き取ります」と──

現場監督の会社に入ってから2週間後に

私は インテリアの仕事に導かれました

キレイなものと その裏側のあいだ

知らないことばかりの世界は

とても新鮮で 毎日が楽しかった

結婚式場をつくる仕事は

可愛いものに触れられるので 大好きで

いらなくなったサンプルなどを机に飾っていたら

いつのまにか まつざわちゃんワールドと呼ばれていました

出張で セブ島にも2度行きました

自社工場の目の前にあった 駄菓子屋さんが気になって

1人で走って向かったら 人だかりができてしまって

気づくと 警備の人が 大きな銃を持って出てきていたり

社長の旦那さんの車でご飯に行ったときは

道がガタガタで 運転も荒くて

怖くてシートベルトをしようとしたら

「そんなものするな!」って怒られて

でも 怖いからしたら

目的地に着いても 外れなくなって

そのまま 置いてかれたりして──

今まで見たことのない世界は

すごくキラキラしていて

面白かったです

でも どれだけ楽しい時間があっても

オーボエだけは 忘れられなかった

癒しの音楽を奏でられるようになりたい私なら

きっと 自分で自分を癒せるはず

そう思って

思いつく限りのことを 試しました

だけど それでも吹けなくて

劣等感に押しつぶされそうになっても

「また吹けるようになりたい」という気持ちは

消えませんでした

そんなある日──

偶然のように JAZZという音楽に ふれたとき

音楽を再開したらJAZZをやるんだ

そう わかったのです

でもそのときの私は まだ

オーボエを吹くのが 怖くて

その音を 聴き流していました

けれど そのとき

私の中の“なにか”が動き

心の奥で もうひとつ

問いが 生まれてきました

五感を癒す空間は

誰にとっても 同じではない

だからこそ──

たったひとつの“正解”を探しても

そこには 辿りつけない

どこに どんなふうに

その空間をつくっていけばいいのか?

私の問いは 

癒しの手段ではなく

“自分自身の内なる泉”へと

向かい始めていたのでした

ここから

私の ほんとうの旅が 始まります

本当にやりたい──

癒しの音楽を探す旅が 静かに始まったのです

*次回|第8話へつづく*

問い編の記事はこちら

→ 泉にふれる問い

過去編の記事はこちら

→ 音楽迷子の記憶

現在編の記事はこちら

→ JAZZ OBOEの旅の途中

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この記事を書いた人

音楽迷子を経て──
自分らしさに還る旅の途中

湧き出てくる音楽と
五感を癒す空間を感じながら

JAZZを学び
リードのまわりの小物たちをつくる日々

音と暮らしの中に
私だけのリズムを見つけていく旅

これは
JAZZとリードと
私の“泉”の記録です